思うとおりにいかなくても・・・⑤



フランス料理店に勤めることが叶って
忘れかけていたメートルへの気持ちに
ポポポポポッと火がついた後の
オハナシを少し。









*********************










私が勤めはじめたフランス料理店のシェフは
自分の世界(哲学)を持っている人でした。


なので。

外から見ると
「頑固なシェフ」と映ることがあったように思いますが
それはちょっと、違います。

譲らないところを見ると
確かに頑固といえますが、
一緒に働いてみると解るのですが
ただの頑固ではなかった。

ただ、自分の哲学が有り過ぎるほど在った、
「職人」のシェフでしたので
実現するために、
毎度、行動していただけのこと。

行動するのは
当たり前です。
そのために覚悟して
お店を開けたのですから。





その象徴するできごとは、たとえば、
シェフはすでに15分以上もお待たせしているお客様に対して、
メッセンジャー(私)を通して
このような(↓)伺いを立てるシェフでした。


「鴨の胸肉に火が入りすぎました。
もう一回焼きたいのですが、
お時間大丈夫でしょうか?」


次にお約束があるお客様は
「それはできない」、という相談でしたが、
私の記憶では、めったにない、
このような申し出をお願いされたお客様方からは
了解を得ていたように思います。

ですから、私は
そのようなお願いをお伝えすることを
メッセンジャーとして特に嫌ではなかったのです。

これはチョット
スゴイこと。

クレームになってもいい出来事が
クレームにならない。




オーブンで温められた
厚みのあるお皿にのった
存在感のあるお料理。

その一皿から伝わる
「何か」があるから
シェフのファンはお料理を待てたのだと思います。










フランス料理店に勤める少し前から
私は一人暮らしをはじめていました。

そして毎月、ワインやレストランや
飲食業の業界紙を購入していました。
業界紙の巻末にはこの先3ヶ月くらいの
イベントやセミナー情報が載っていて。


フランス料理に正面から向き合っているシェフに
毎日、触発されていた私は
「これは(受講せねば)!」と思うセミナーを見つけては
受講するために生活を工夫して
お金を貯めていました。

お誘いや付き合いをほぼ断り、
お金を貯めてはセミナーを受講していました。





セミナー受講料って
生活を工夫したり
付き合いを断るほど
そんなに高いもの?

と、思われますよね?


高いのは
航空運賃と宿泊料金。


沖縄にはメートル・ドテルの職がないわけですから
セミナーが沖縄で開催されるはずがありません。

主に東京で開催されるメートルの受講料は
当時、おおよそ5千円~程度でした。
ですが東京への航空運賃と宿泊費は毎回、
合わせて4~5万円。
セミナー日程が月曜日だったりすると
前日入りしないといけないので
週末の運賃となり、
もう少し上乗せされます。

1990年代は今ほどLCCはありませんでしたから
直近での予約だと、どうしても、そのくらいの費用が
かかってしまっていました。



20代半ばの
街場のレストランの
正社員ではない者に支払われる
お給料のなかでの一人暮らし。

そのお給料から家賃と光熱費、
食費を引いた残りのなかで、
セミナー受講のため東京に行く、というのは
実は本当に厳しくて。
だから20代の私は貯金なんて
ほぼ、なかった。



貯金もなく、いつも心細かったけれど、
メートル・ドテルのセミナーはこの上なく上質で
毎回、「次も参加したい!」と思わせる
何か陶酔させるものが
その空間には満ちていました。






【メートル・ドテル】というのは
老舗ホテルやフランス料理レストランに在る
「職種」の名前です。

お客さまと直に接する、
ホールの統括責任者。

料理をテーブルに運ぶことは滅多になく、
ウェイター、ウェイトレスに指示を与え、
全体を見る人のこと。

発祥の地フランスでの「メートル・ドテル」は、
経験やサービス技術、
豊かな見識、
信頼に値する資質を備えた
レストランサービスのプロフェッショナルとして、
不動の地位を保っている職種で、
最優秀職人賞(通称MOF)を
授与するコンクールが行われるほど、
重要な職種と認められています。

MOFは日本で言えば
人間国宝のようなもの。

MOFを授与するためのコンクールが
開催されるということは、
国が守りたい文化ということ。
ですから国が認め、授与されれば
年齢に関係なく大いなる尊敬の対象となるわけです。




生活がカツカツ、
でも気持ちはウキウキだったこの頃に
私にはいくつかの価値観とルールが
できました。



特に最も影響を受けたことは
「日本でいいじゃん!」です。

講師はフランスの三ッ星レストランでの
メートル経験を修めている日本人の先生方。

その先生方は努力を重ね
経験を積んで積んで、
とうとう若いフランス人に
サーヴィス技術をフランス語で
教えるほどになっている先生方。



フランス料理は
理論的なものです。

ですから付随しているサーヴィスも
当然、理論的になっています。

理論はまず言葉で聞き、
理解しないと
自分のモノにはならないもの。
つまり理解してはじめて、
自分のものになり
行動できるというもの。



私は講習を受けるたびに
「レストランサーヴィスの秘伝のような、
奥義のような、こんな重要で大事なことを
惜しげも無く公表し、伝えてくる先生方って
このメートルの世界はなんてオープンなんだ!
なんて視野が広いんだ!
そして、日本語で受講することが出来るって
なんて幸せなんだろう!
全部、聞くことができるし
書き留められる!
自分の言葉で質問もできる!」
と感じていました。


惜しげも無く教える理由、
今なら解ります。

それはきっと、
「どうぞ、どうぞ、できるのなら
やってごらんよ!
(そんな簡単には出来なんだから!)」
だと思います。







このような経験をしてしまっていたので、
私は「本場に行ってホンモノを見てみたい!」という
欲望は消え失せていました。

本場は確かに本物かもしれないけれど
一流は本場でないところにも、いる(在る)。
ならば、本場に行かなくったって
いいじゃない?と、思ってしまったんです。


たとえば。
もっと高い費用をかけて
もしも、もしも、フランスに行けたとして。

さらに。
もしもチャンスが重なって
レストランに勤める機会が
万が一にでもあったとして。

も。

こんなにサーヴィスのことを
惜しげも無く教えてくれるだろうか?

仮に親切で教えてくれる人がいたとしても
その時、私は細部まで
理解することができるのだろうか?







講習では技術も見せてもらいましたし、
実際に自ら切り分け(デクパージュ)もしました。
ですが、何よりもマインド(意識)や
スピリッツ(精神)を教えてもらいました。

レストランでの立ち方、
歩き方などの振る舞い。
何よりもお客様から信頼、信用を
得ることの重要さを教えて頂きました。

それは技術よりも
実はもっと大事なものです。


技術がどんなに高くても
人柄が今ひとつなら、
レスト&ランというステージでは
意味がないのです。





シェフはお料理で
お皿の中で
自分の哲学と美学を
表現していて
お客様はそれを
体感していました。


ですから、フランス料理店で勤めていた当時、
シェフがどんなにお客様をお待たせしたとしても、
私はセミナーでレストラン・サーヴィスの本質と
役割と精神を教えてもらっていたので、
シェフがなぜ、もう一度お肉に火を通したいのかを
お客様にお伝えすることができ、
合わせて、フランス料理の魅力を伝えることができ、
そうしているうちに、お肉はビアン・ロゼに
無事に焼き上がり、お客様の前に
少し熱いくらいのお皿は届くのでした。










ちょうど、その頃。


若い私のために
(酔った勢いでしたが)
泣いてくれるお客様に出会いました。

私のために泣いてまで
物事を伝えてくれるお客様は
私の人生の中で今のところ、
このお方だけです。


その時はカウンターの中で
メインディッシュの重たいお皿を
左手に何枚か持っていました。
親指はシルバーを押さえていて。

そのお皿の重みと、
カウンターの中から見た
ホールとキッチンの風景と、
「オトナの男の人が泣くなんて!」という
驚きと動揺が混じった、あの時の気持ちは
この先もずっと忘れることがないでしょう。






拳を握り、私のために泣いてくれたお客様が
私に言ってくれたこと。




それは・・・





「君は・・・」




「君は・・・」



「君は・・・」








つづく











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水曜日~日曜日 10時~15時

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